日本のスギがいかに奇跡的な樹木であるか、ご理解願えたでしょうか。私見もありますが、日本列島という孤立した環境で、セコイアに近い固有の樹木が自生している理由が、これである程度説明できるのではないでしょうか。勿論、今日のようにスギが日本中で繁栄したのは、植林が大きく貢献したことは言うまでもありません。
そしてスギ(一部ヒノキも)は、江戸時代には多くの藩や地域を繁栄を導き出しました。しかし、戦後の補助金漬け政策は、日本の林業の多くを破綻させ、花粉症と言うマイナスの副産物をもたらせたことは残念でなりません。失敗の理由は極めて明確です。林業従事者の育成を殆ど行わず、金だけで植林面積を増やし、放置された半死状態の森を無尽蔵に生み出してしまったからです。補助金に群がった地権者も勿論同罪です。そして、放置された針葉樹の人工林ほど惨めなものはありません。根張りが弱く保水力が無い。従って、地すべりなどの自然崩壊の原因にもなるからです。
話を、スギと造園・植栽に転じます。スギはマツ、マキなどの針葉樹と比較すると、一見庭園や住宅の庭とは関連性が薄い樹木のように思われがちです。しかし、台杉と言う技法により、非常に魅力的なガーデン用植物へと変身します。そして、最近流行のモダン系のガーデンと台杉は間違いなくマッチします。伝統的造園の世界でけではなく、最先端のシンボルツリーとしても復活させたいものです。
では、台杉とは何でしょうか。話は室町時代にまで遡ります。舞台は京都・北山。同地は、関西方面の木材の供給元として、多くのスギが栽培されていました。しかし、森林面積が限られており、新しい植林場所が確保できませんでした。そこで考案されたのが台杉という育苗技法です。植林後5~6年で最初の枝打ちを行うが、この時一番株下の枝だけを残す。やがて、主幹をカット。同様の技法を繰り返し、200~300年の間、1本の杉から取り木のような形で適度なサイズの建築材を確保し続けると言うもの。
やがて、台杉技法を使った建築材は激減します。しかし、造園用の樹木として注目されるようになります。一般の株立とは異なるシャープなラインに作庭家達が注目したからでしょう。それに従い、台杉=北山杉、と言う構図ではなく、各地の造園用植栽場で台杉が作られるようになります。しかし、近年ではその台杉も日陰の存在。前期のような視点でぜひ見直したいものです。花粉症になるから駄目。いや、既に殆ど花粉を撒き散らさないスギも開発されています。
世界的にも貴重なスギですが、日本人の身勝手で、役に立たない森林~自然災害の汚名、アレルギーの媒介者、など暗いイメージも付きまといます。私たち自身が反省し、その復権にもっと努力すべきでしょう。
日本庭園の定番樹木ダイスギ。和風モダンに使うと映えるかも。